読書履歴
[佐武と市捕物控 1 風の章] 石ノ森 章太郎
江戸時代を舞台にした岡っ引きの佐武と、按摩で盲目ながら凄腕の剣客でもある市のコンビが、市中で起こる事件を解決していく連作シリーズ。その復刊版です。4巻構成で、今月は2巻目も出るのでマストハブ。
下旬は漫画を結構読んでるんですけど、最後にこれを読んでもう全部霞んじゃいましたよ。
感想も書いても蛇足、まさに「イヨッ! 石ノ森!」です。
[先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!] 小林朋道
新聞広告で一度見かけて、タイトル買い。大学で動物行動研究学を教えている先生の手になる著書。内容は諸般の事情で出会うことになった動物にまつわるお話です。
ジャンルとしては、コンラート・ローレンツ博士のソロモンの指輪に連なるエンターテイメント兼ドキュメンタリー本といったところでしょうか。が、動物と逆に付き合いが長い人は読むと結構アイタタタな内容で。
個人的にさほど動物と蜜な付き合いはありませんが、学生から預かった子ヤモリを脱走させてしまうエピソードなどは、心胆寒からしめられました。
逃がしてはいけない小動物が逃げた! どこにいったのか判らない! でもこの部屋にいる! というか、いてほしい! そして始まる数時間・数日に及ぶ心理戦──。冷静に動物の性癖を見抜いてトラップをしかける先生の行動力を私も是非身に着けたいです。
[ミストボーン―霧の落とし子〈3〉白き海の踊り手] ブランドン・サンダースン
終の帝国に千年にわたって君臨し、不老不死の神とも崇められる支配王の圧制を覆そうとする、盗賊たちの物語もとうとう完結です。玉石混交の邦訳ファンタジーではひさしぶりのヒット。
以前、ジャンプ漫画のようなファンタジー小説と紹介しましたが、これまでの伏線の回収や霧の申し子同士の応酬など、クライマックスに向けて、面白さとテンションがガーッと上がっていくのはまさに漫画的。
解説によると作者は「オーシャンズ11みたいなファンタジー小説が書きたかった」そうで、盗賊団が各方面のプロフェッショナルの集団というのは如何にもですが、徐々に物語のフォーカスは盗賊団から、この世界の頂点に立つ存在である霧の申し子となった、しかし迷える少女ヴィンに次第に移っていきます。
陰惨で残酷な因習に彩られた世界で、貴族とスカーとの混血、兄の裏切りと言う過酷な生い立ちから人を信じられなくなったヴィンが、やがて盗賊団の仲間たちと打ち解け、恋愛をし、同時に霧の申し子として卓越した才能を開花させていき、最後には無我夢中で、誰にもなしとげられなかったことをついに実現する。
でも、結局このお話は、ヴィンが気負わず普通に笑えるようになるまでの、成長物語なんですよね。
これでどうやら第一部完、というところで、最後にまた新しい伏線が張られており、続きは是非にも読みたいところです。
[天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上・下〉] 小川 一水
テリトリー内の書店に、ミストボーン最終巻の姿形が皆無。せっかくだからオレは平積みにされてるこの上下巻を選ぶぜ! ということで、はからずもこれが人生初小川作品になりました。
墜落した植民船とか、ロストテクノロジー独占してる支配者層とか王道だよねー、とか思ってたら、それは読者を油断させるための罠でしたよ奥さん! 読み始めれば王道どころではない、怒涛の展開が待っております。ネットで余計な情報とか拾わないで読むのが吉ですよー。
なにか迂闊なことを書くとすぐネタバレになっちゃうのが悩ましいので書けませんが、ここ最近のSF小説でみかけたアーキタイプは一通りぶち込まれているという豪華さ。全10巻予定の長編シリーズのプロローグにあたるエピソードのようですが、いやいや、このボリュームなら文句言わない。面白かったー。
こてこてに盛り付けられたSF設定といい展開といい、もう読んでてスゲースゲー言いどおしで、今年はSF作品ではマイベストと思われた太陽の中の太陽と甲乙付けがたい、いや男女の機微はこっちのほうがエロエロしいです。
[翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉] 妹尾 ゆふ子
近所の書店を行脚すること一週間、どこにいっても置いてないのでついに通販で手に入れました! こんなに待ち遠しかった新刊も数年ぶり。いやー、やっと読めました。
さて前回、いきなり四大公家の黒狼公に叙せられてしまった元尚書官のヤエトさん。
葉隠を地でいくフリをしながら、だんだん無自覚・男女かまわない全方位タラシの本性が明らかになってきた、そんな彼に降りかかるトラブルは、前・黒狼公からひきついだ領地とその因縁。
その一方で、彼の着任と同時に火蓋が切っておろされた次期皇帝位をめぐる権力闘争もやむことをしらず、その渦中に否応無く巻き込まれてゆく、皇女とヤエトはあるべき自身の立ち位置を模索し始めます。
...こうして書き出してみると実にオーソドックスな展開なんですが、読んでいて展開が予測できない新鮮さを感じるのは、考えるにほとんどストーリー展開をヤエトの(ライブな)主観が占めているからだろう、と思い当たりました。
文章は基本、現在進行形の三人称なのですが、ところどころでヤエトの内省(主にグチ)を織り交ぜつつ、ヤエト視点でお話が進むため、ヤエトがあずかり知らぬところで起こっている出来事、その他の登場人物の内面は一切描写されません。
ヤエトと相対した彼・彼女の内心がこれこれこうだろう、というのが明らかになるのもヤエトの洞察力と台詞の応酬の結果であって、また事前にヤエトの察しがついていることであっても、台詞になるまで読者は知らされないことが往々にしてあるので、TVドラマのシナリオを読んでいるような雰囲気です。
そのパターンが唯一崩れるのが、ヤエトのもつ過去視の恩寵が発動するシーン。そこではじめてCSIばりの犯行再現シーンならぬ第三者視点の過去形になり、過去視の恩寵の凄まじさが自然にクローズアップする仕組み。
...こういう効果とか考えてから書くんだなー、小説家ってすごいなー。
ヤエトや皇女、何をやっても様になる華の騎士ルーギン、ジェイサルド、となかなか魅力的なキャラクターの多い翼シリーズですが、根っこのところでは、私この人の文章そのものが好きみたいです。





