9月上旬に読んだ本
[翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉] 妹尾 ゆふ子
近所の書店を行脚すること一週間、どこにいっても置いてないのでついに通販で手に入れました! こんなに待ち遠しかった新刊も数年ぶり。いやー、やっと読めました。
さて前回、いきなり四大公家の黒狼公に叙せられてしまった元尚書官のヤエトさん。
葉隠を地でいくフリをしながら、だんだん無自覚・男女かまわない全方位タラシの本性が明らかになってきた、そんな彼に降りかかるトラブルは、前・黒狼公からひきついだ領地とその因縁。
その一方で、彼の着任と同時に火蓋が切っておろされた次期皇帝位をめぐる権力闘争もやむことをしらず、その渦中に否応無く巻き込まれてゆく、皇女とヤエトはあるべき自身の立ち位置を模索し始めます。
...こうして書き出してみると実にオーソドックスな展開なんですが、読んでいて展開が予測できない新鮮さを感じるのは、考えるにほとんどストーリー展開をヤエトの(ライブな)主観が占めているからだろう、と思い当たりました。
文章は基本、現在進行形の三人称なのですが、ところどころでヤエトの内省(主にグチ)を織り交ぜつつ、ヤエト視点でお話が進むため、ヤエトがあずかり知らぬところで起こっている出来事、その他の登場人物の内面は一切描写されません。
ヤエトと相対した彼・彼女の内心がこれこれこうだろう、というのが明らかになるのもヤエトの洞察力と台詞の応酬の結果であって、また事前にヤエトの察しがついていることであっても、台詞になるまで読者は知らされないことが往々にしてあるので、TVドラマのシナリオを読んでいるような雰囲気です。
そのパターンが唯一崩れるのが、ヤエトのもつ過去視の恩寵が発動するシーン。そこではじめてCSIばりの犯行再現シーンならぬ第三者視点の過去形になり、過去視の恩寵の凄まじさが自然にクローズアップする仕組み。
...こういう効果とか考えてから書くんだなー、小説家ってすごいなー。
ヤエトや皇女、何をやっても様になる華の騎士ルーギン、ジェイサルド、となかなか魅力的なキャラクターの多い翼シリーズですが、根っこのところでは、私この人の文章そのものが好きみたいです。
[マインドスター・ライジング〈上〉〈下〉] ピーター・F. ハミルトン
92年刊行の、ちょっと時代色を感じるサイバーパンク系SF小説。
お話の舞台は、近未来、地球温暖化によって経済と社会体制が覆されてしまった斜陽の英国。
イギリスが環太平洋地域に誇る大企業イベントホライズンに、その内偵を依頼された元マインドスター隊の軍人であるサイキック能力者・グレッグ、そしてイベントホライズンの設立者である大富豪イヴァンズ家の次期当主であり、この世界では稀有な電脳を持つ、恋愛に悩める17歳の少女ジュリアが主人公。
さて、イベントホライズンに仕掛けられた企業テロの陰謀をグレッグが、かつての仲間と共に解き明かしていく、というのが大まかなアラスジなんですが、小説本来の展開よりもどちらかといえば、ifのイギリスを楽しむという趣が強かったです。
渡航暦はないものの、以前、プラントハンターの本を読んでいるせいか漠然と思うのですが、亜熱帯の緑に包まれたイギリスって実はイギリス人からすると、もしかしてすごい憧れなんじゃないかと。20年前には単に想像の範囲内でしかなかった地球温暖化の描写もどこか無邪気で、いたるところにモサモサと生えまくる植物への緻密な描写は、それに拍車をかけてる感じでした。
[復原・江戸の町] 波多野 純
江戸東京博物館の目玉である模型展示、両国橋や家屋の再現に関わった作者による恐るべきドキュメンタリー。
模型やレプリカを作るにはまず原型を詳細に調べなければならないのですが、現存している江戸の建物は都内にほぼ皆無という状況で、必然的に書籍や絵画にその詳細を求めることになるのですが、当時の書籍にあたったら実はそれが後年書かれた偽書だとわかったり、ようやく見つかった道幅の寸法の記述1つとっても、それが京間なのか田舎間なのか、と当時の規格に悩んだり、江戸時代の建造物を再現することで判った先人の知恵・以下残りはほとんど苦労が書き綴られています。




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